市場概観 (FY2022-2024)
日本の画像医療システム市場は、年間約3,700億円規模で横ばい圏で推移しています。しかしその内訳を見ると、診断系装置が微減傾向にある一方、2024年には治療系装置が前年比+51%と大幅に増加し、市場全体を下支えする構造変化が見られます。このセクションでは、市場の構成と主要カテゴリーの動向を探ります。
国内市場規模 (2024年)
3,747億円
平均買替年数 (2023年)
12.7年
治療装置市場成長 (24年)
+51%
IT/画像処理市場
一貫して増勢
国内市場構成推移:診断系 vs 治療系 (億円)
主要カテゴリー別 国内市場規模推移 (億円)
機器の老朽化:長期使用の固定化
日本市場の構造的特徴は、機器の長期使用が固定化している点です。代表7機種の平均買い替え年数は12年台で高止まりしており、2023年は12.7年に達しました。これは、多くの医療機関が「延命利用と計画的保守」を前提とした運用を行っていることを示唆します。下の稼働年数分布グラフが示す通り、主要機器の1/3以上が11年以上使用されており、この状況は将来の巨大な更新需要のポテンシャルであると同時に、TCO削減や業務効率化を訴求する新しい価値提案が不可欠であることを物語っています。
主要機器の平均買い替え年数比較 (年)
主要機器の稼働年数分布 (2023年推定)
入札・調達動向
国内の設備投資において、国公立病院や独立行政法人による公募入札は重要な役割を果たしています。特に、国立病院機構(NHO)が毎年実施する共同入札は、市場の動向を測る上での重要な指標となります。これらの入札は、大型の画像診断装置本体だけでなく、PACSや保守サービスも対象としており、安定した市場を形成しています。下のグラフは、主要な公的機関における大型医療機器の公募入札件数の推定推移を示したものです。
主要機関の大型医療機器 公募入札件数(推定)
注: 本グラフは公開情報からトレンドを推定したものであり、実際の全入札件数とは異なります。
主要メーカーの業績と市場の温度感
各社の業績は、市場の「温度感」を映し出します。特に2024年、キヤノンが医療事業でのれんの減損を計上し、その理由として「日本の医療機関の経営環境の悪化」を挙げたことは、市場の逆風を示唆する重要なシグナルです。一方で、国内販売チャネルは堅調な企業もあり、ITソリューション等が貢献しています。外資系はグローバルでの製品サイクルで攻勢をかけ、国内勢は保守を含む総合力で対抗する構図が見られます。
主要メーカー国内ヘルスケア関連売上高推移 (億円)
注: 各社の会計年度や事業セグメントの定義が異なるため、本グラフはあくまで傾向を把握するための参考値です。
戦略的展望と結論
本レポートの分析から、日本の画像診断機器市場は「横ばい」というマクロトレンドの裏で、「治療装置とITの伸長」「診断装置の停滞」「深刻化する機器の老朽化」という構造変化が進行していることが明らかになりました。今後の市場を勝ち抜くための鍵は、以下の3つの戦略的領域に集約されます。
1. IT/AIによるワークフロー革命
唯一成長を続けるIT/画像処理分野が示すように、AIを活用した検査の自動化・効率化は競争力の源泉です。技師不足の解消とスループット向上に直結するソリューションが求められます。
2. 「延命・保守」市場への価値提案
買い替えの長期化は、計画的な保守と延命利用が市場の前提であることを意味します。更新を促すには、省エネ性能や予知保全によるTCO削減といった経済合理性の提示が不可欠です。
3. 治療領域へのシフトと連携
2024年に急伸した治療装置市場は、重要な成長ドライバーです。診断から治療への連携(Theranostics)を強化し、診断装置が治療価値向上にどう貢献できるかを示す戦略が重要になります。